オリオン大星雲 M42 を撮る

- 揖斐谷 -








昨年10月下旬にビクセンへスペーサー交換に出していた鏡筒が先週末ようやく戻ってきた。例年なら揖斐谷は一面の雪で、腰を据えた撮影など望むべくもないが、この冬はときどき春のような陽気を見せる。といっても夜が更けるにつれて結露を通り越して次々と凍り付いていき、寒い

この晩は環境省の「デジタルカメラによる夜空の明るさ調査」のために林道へ入った。昨年は積雪と凍結で車が入らず、登山靴に軽アイゼンをつけてカメラと三脚を担いで入った。それを思うと夢のようだ

指定の撮影期間は1月12日からだが、この日は快晴だった。しかし初虚空蔵の夜のため撮影できなかった
毎日気象情報を睨みながらこの夜も日没後1時間半過ぎたところで林道を上がったが、一面の雲。仕方なく諦めて帰るとなんとなく薄雲を透かして北極星も見え始めた。そこでもう一度戻って、雲を避けながら日没後3時間半を迎える直前になんとか撮影できた
翌日データを送信するとこの冬は日本列島各地が天候に恵まれた日もあったらしく、すでに各地から報告が上がっていた。週末、そして来週は強烈な寒波の襲来が予想されているので、結局この晩がラストチャンスだったということになるのではないか。きわどかった、と胸をなで下ろす

さて夜空の明るさ調査のデータを取得した後は、ほぼ快晴にかわった。早速スペーサー交換した鏡筒をテストする。

ビクセンは愛機活躍サポートプロジェクトの一環として 81Sシリーズ スペーサー交換キャンペーン を2021年10月から展開していた
屈折式望遠鏡 SD81S は対物レンズをはさむ錫箔の小切片がスペーサーとしてレンズ外周付近に3枚配置されている。この小切片がレンズの有効径内に出ているため、入射光が回折によって欠けて3本の光条のような筋が伸びる。それをリングスペーサーに交換することで、均一な回折光が得られる。これにより SD81S鏡筒 は最新の SD81SⅡ鏡筒 と同等の性能を得ることとなる。さらにオーバーホールとグリスアップもされていて、新型鏡筒と同等の仕上がりで帰ってきた
旧型の回折光もレンズの味と言えないこともないが、やはり滑らかな回折光に越したことはない

アライメントを終えた赤道儀にスペーサー交換から帰ってきた鏡筒を載せ、1枚テスト撮影する。新しい星像は回折光の欠けはなく、均一で滑らかなリング状となり、美しい。これだけ違うのだと思わず声が出る

新しく帰ってきた鏡筒には凍結防止のためアルミシートを巻き付けているが、その上から凍りそうなほどの寒さが襲う。冬季にやってきたせっかくのチャンスなので、せめてM42だけは撮りたいと粘って撮影

M42はオリオン座の小三つ星の中央にある。オリオンのベルトに相当する横三つ星に対して、縦に3つ並んでいるように見えることからこの名がある
しかしその中央のM42はM43を伴った散光星雲で、水素が電離するときの赤に近い発色が特徴。またM42の中心にはトラペジウムと呼ばれる四重星がある。これを撮影するために3種類の露光を繰り返す。オリオン座には人工衛星の光跡が絶えず流れているので、それぞれσクリッピングで加算平均し、光跡を消して仕上げた

大雪の前にともかく撮れたことに感謝したい



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カメラ SONY α7M3(IR改)
鏡 筒  SD81S(リングスペーサーに換装)、SDフラットナーHD+レデューサーHD、625mm×0.79(F7.7→6.1)
赤道儀 SXD2、ノータッチガイド
ISO3200、露出時間 770秒(60秒×8枚、30秒×6枚、15秒×7枚、σクリッピング加算平均で人工衛星の光跡を消す)


2023年1月17日22時19分から 揖斐谷